
他では真似できない独特な飼育方法
さつま福永牛を育む、愛情と手間の物語
はじめに
「炊いた餌って、何ですか?」
お客様からよく聞かれるこの質問。一般的な畜産業では聞いたことのない、福永畜産独自の飼育方法です。
毎日、牛舎から湯気が立ち上る光景。まるで家庭の台所のよう。現在は、大型の蒸煮機になっていますが、当初、大釜数基で餌を炊いている様子を見て、多くの方が驚かれました。「手間がかかりすぎるのでは?」「本当に効果があるの?」そんな疑問を持たれるのも当然でしょう。
今回は、この「炊いた餌」という他では真似のできない独特な飼育方法について、その背景にある想いと共にお話しさせていただきます。
「炊いた餌」とは何か
一般的な飼料給与との違い
通常の畜産業では
- 乾燥した配合飼料をそのまま給与
- 稲わらやヘイキューブなどの粗飼料と混合
- 時間効率を重視した合理的な方法
福永畜産の「炊いた餌」では
- 配合飼料を大きな釜で蒸煮する
- 加熱処理
- 毎日新鮮な状態で給与
- 手間と時間を惜しまない方法
炊飯の工程
早朝:仕込み開始 スタッフが牛舎に到着すると、まず大きな釜に火を入れます。この釜、実は特注品。一度に数百頭分の餌を炊くことができる大容量です。
工程1:材料の準備
- 大麦、小麦、大豆粕、米ぬかなどを計量
- 季節や牛の状態に応じて配合を微調整
- 清浄な水を準備
工程2:炊き上げ
- 強火で沸騰させた後、弱火でじっくり数時間
- 絶えずかき混ぜながら
- 焦げ付かないよう細心の注意
・きたての餌が、ようやく牛たちのもとへ届けられます。
なぜ「炊く」のか?福永社長の信念
始まりは一頭の牛から
福永社長がこの方法を始めたのは、今から約20年前。肉質と牛にとっての美味しい餌はどの様なもので会うだろうと考えていた時の事でした。小さい頃に近所の牛好きのおじいさんが、自宅で家族のように大事に育てている牛に、炊いた餌を食べさせていたのを思い出したのです。
「昔、少数頭飼育をしている農家さんは、自宅にある野菜などを炊いて食べさせていた。それを美味しそうに牛が食べていた様子を…」
試行錯誤の末、餌を炊いて与えてみたところ、牛たちがなんだか元気に。それだけでなく、肉質も格段に向上していることに気づいたのです。
「手間を惜しまない」哲学
「機械化や効率化が進む現代でも、牛にとって本当に良いことは何かを考え続けてきました。確かに手間はかかります。でも、その手間が美味しい牛肉になって返ってくるなら、惜しくありません。」
毎朝4時起きで餌炊きを続ける福永社長の言葉には、揺るぎない信念があります。
「牛の気持ちになって」
「人間だって、冷めた料理より温かい手料理の方が美味しいでしょう?牛も同じなんです。愛情をかけて作った温かい餌を食べた牛は、きっと幸せを感じてくれている。その幸せが、美味しい肉になるんです。」
この言葉に、福永社長の牛への愛情が込められています。
炊いた餌の科学的効果
嗜好性の向上
香りの発生 炊くことで穀物の甘い香りが立ち、牛の食欲を刺激します。牛舎に近づくと、まるでご飯を炊いているような香ばしい匂いがするのはこのためです。
食感の改善 硬い乾燥飼料より、柔らかく炊かれた餌の方が牛にとって食べやすく、ストレスが軽減されるのでしょう。
牛たちの反応:幸せそうな食事風景
餌の時間が待ち遠しい牛たち
「炊いた餌」を始めてから、牛たちの行動に明らかな変化が現れました。
食欲の向上
- 残餌がほとんどなくなった
- 食べる速度が速くなった
- 食事時間が楽しそう
健康状態の改善
- 毛艶が良くなった
- 目がイキイキとしている
- 病気にかかりにくくなった
スタッフが見た牛の変化
ベテランスタッフのTさんの話 「最初は『そんなに手間をかけて…』と思いましたが、牛の様子を見ていると、明らかに違うんです。餌の時間になると、みんなそわそわして、『早く、早く』って感じで待っているんですよ。」
若手スタッフのSさんの話 「他の牧場で研修した経験がありますが、ここの牛は本当に穏やかです。ストレスが少ないのか、人懐っこくて、餌やりの時間がとても楽しいです。」
牛の個性も見えてくる
炊いた餌を与えることで、牛一頭一頭の個性がより見えるようになりました。
食べ方の違い
- ゆっくり味わって食べる牛
- 一気に食べてしまう牛
- 周りを気にしながら食べる牛
好みの違い
- 熱めの餌が好きな牛
- 少し冷めた餌が好きな牛
- おかわりを要求するしぐさをする牛
これらの個性を把握することで、より細やかな管理ができるようになりました。
手間の価値:なぜ他では真似できないのか
労力の現実
時間コスト
- 毎日数時間の炊飯作業
- 365日休みなし
- 人件費の大幅増加
設備コスト
- 専用の炊飯設備
- 燃料費の増加
- メンテナンス費用
技術的な困難
なぜ続けるのか?
多くの畜産農家が「非効率」として敬遠するこの方法を、なぜ福永畜産は続けるのでしょうか?
福永社長の答え 「確かに手間はかかります。でも、その分、牛が健康に育ち、美味しい肉になってくれる。全国肉用牛枝肉共励会で名誉賞をいただけたのも、この『炊いた餌』があったからこそ。手間をかけた分、必ず結果で返してくれるんです。」
経済性との両立:こだわりの価値
コストの現実
「炊いた餌」による追加コストは決して小さくありません。
年間追加コスト(概算)
- 人件費:約300万円~
- 燃料費:約150万円~
- 設備費:約100万円~
- 合計:約550万円~
価値への転換
しかし、この投資は確実にリターンをもたらしています。
品質向上効果
- 枝肉等級の向上:A5率が高い
- 共励会での入賞:名誉賞受賞等の実績
- 市場価格:指名買いをしていただく目利きのバイヤーの評価
ブランド価値
- 「炊いた餌」の独自性がブランド力に
- メディア注目度の向上
- 消費者の信頼獲得
福永社長の経営哲学
「短期的な利益を追求するなら、確かに効率的ではありません。でも、本当に良いものを作り続けることで、長期的には必ず報われる。それが私の信念です。」
炊いた餌が生み出す肉質の違い
1級フードアナリストによる品質分析
炊いた餌で育てられた「さつま福永牛」の肉質には、明確な特徴があります。
脂肪の質
- 融点が低く、口溶けが良い
- 甘みと旨味のバランスが絶妙
- オレイン酸含有量が高い
肉の食感
- きめが細かく、柔らかい
- 水分保持力が高い
- 噛むほどに旨味が出る
香り
- 上品で深みのある香り
- 嫌味のない脂の香り
- 調理時の香り立ちが良い
お客様の声
料理店オーナーの評価 「炊いた餌で育てた牛の肉は、明らかに違います。脂の質が上品で、お客様からも『今日のお肉は特に美味しい』と言われることが多いです。」
鹿児島唯一のデパート:精肉店の感想 「鹿児島県内には大小数百の畜産家がいらっしゃいますが、10年以上、福永畜産のさつま福永牛一択です。」
未来への想い:技術と愛情の継承
技術の進化
IoT技術の活用
- 温度センサーによる自動監視
- 炊き上がりタイミングの最適化
- データに基づく品質向上
しかし、変わらないもの 「技術は進歩させますが、『愛情をかける』という基本は変わりません。牛への想いがあってこその『炊いた餌』なんです。」
業界への影響
福永畜産の取り組みが、他の畜産農家にも影響を与え始めています。
見学者の増加 全国から視察に訪れる畜産関係者が増加。「炊いた餌」の技術を学びたいという要望も多数。
業界誌での紹介 畜産専門誌やテレビ等でも度々取り上げられ、注目を集めています。
まとめ:愛情が生み出す唯一無二の味
「炊いた餌」—それは単なる飼育技術ではありません。牛への深い愛情と、美味しい肉を作りたいという純粋な想いが生み出した、福永畜産だけの特別な方法です。
なぜ他では真似できないのか
技術的な困難さ
- 高度な火加減調整技術
- 24時間365日の継続性
- 多大な労力とコスト
しかし、最も大きな理由は…
「愛情」という見えない材料 どんなに技術を真似しても、牛への愛情がなければ、本当の意味での「炊いた餌」にはなりません。福永社長とスタッフの牛への想いこそが、この技術の本質なのです。
さつま福永牛を召し上がるお客様へ
あなたが口にする一口一口には、早朝から始まる炊餌作業と、牛たちへの深い愛情が込められています。
毎日の炊餌作業 スタッフの献身的な世話 福永社長の揺るぎない信念 牛たちの幸せそうな表情
これらすべてが重なり合って、あの唯一無二の美味しさが生まれているのです。
「手間を惜しまず、愛情をかけて」
「炊いた餌」で育てられた「さつま福永牛」
それは、人の手と愛情が生み出した、まさに奇跡の味なのです。
【筆者プロフィール】 福永(株式会社牛道役員) 1級フードアナリスト 管理栄養士
福永畜産の独自技術「炊いた餌」に携わり、この特殊な飼育方法の価値を研究している。福永社長の牛への愛情と技術への敬意を胸に、その魅力を多くの人に伝える活動を行っている。


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