先日、鹿児島農業フェアの会場でお客様から声をかけていただきました。「牧場って、普段どんなことをしているんですか?」というシンプルな問いかけでした。
焼肉店には来てくださっているのに、牧場のことはあまり知られていないんだな、と改めて気づかされた瞬間でした。農業フェアのような場に出ると、普段お店ではなかなか伝えきれない「牛を育てること」の話ができる。それが、この仕事の中でいちばん好きな時間のひとつかもしれません。
今日は、さつま町の牧場で普段何をしているのか、お客様にはあまり語らない裏側の話を少し書き残しておこうと思います。
こんな方におすすめ
- ✅ さつま福永牛がなぜ美味しいのか、産地の視点から知りたい方
- ✅ 鹿児島農業フェアや産地直送の和牛に興味がある方
- ✅ 牧場直営の焼肉店にどんな意味があるのか気になっている方
- ✅ 和牛の飼育環境やアニマルウェルフェアに関心をお持ちの方
- ✅ ふるさと納税や通販で「顔の見える和牛」を探している方

農業フェアに出て、あらためて感じること
鹿児島では毎年、農業フェアや畜産関連のイベントが各地で開かれます。生産者が直接消費者と話す機会は、日常の農場経営の中では多くありません。だからこそ、こういった場は特別です。
「この牛肉、どこで育てたんですか?」「どんなエサを食べているの?」——会場でそういった質問をしてくださる方は、本当によく見ている。単純に「美味しいもの」を探しているのではなく、「なぜ美味しいのか」を知りたがっている。そういう方々に、自分の言葉で答えられることが、生産者として何よりの手応えになります。
さつま福永牧場のある鹿児島県薩摩郡さつま町は、霧島連山の北側に広がる盆地の町です。清流と緑に恵まれた土地で、肥育牛約1,100頭・繁殖牛約450頭・子牛約300頭、合計約1,850頭を飼育しています。年間出荷は約600頭。一頭一頭の生涯を、産まれた瞬間から出荷まで自社で管理しています。
実は、ここにいちばんこだわっています——飼料と「炊き餌」の話
牛の美味しさは、飼料で7割が決まる——というのが、34年この仕事をしてきた私の実感です。
さつま福永牧場では、地元農家が育てたワラや牧草を基本の粗飼料として使っています。これは、単純に地産地消という話ではなく、地域の牧草が持つミネラルバランスが牛の体づくりに合っているという経験則からきています。地域の土壌で育ったものを、地域の牛に食べさせる。そのシンプルな循環が、品質の安定につながっています。
そして、肥育後期に行うのが「炊き餌」の給餌です。大豆・米ぬかなどを蒸して作るこの特製の餌は、消化吸収率が高く、さつま福永牛特有の脂質構成——MUFA(一価不飽和脂肪酸)値平均62%、脂の融点13℃という数値——に深く関わっています。
脂の融点13℃というのは、どういう意味か。人の体温より大幅に低い温度で脂が溶けるということです。口に入れた瞬間に広がるあの感覚、「さっぱりしているのにコクがある」という感想をいただく理由が、ここにあります。霜降りなのに胃もたれしない、という声もよくいただきます。
お客様にこの話をすると「なるほど、それで」と腑に落ちてくださる。料理は食材で決まりますが、食材は育て方で決まる。当たり前のようで、なかなか伝わりにくいことです。
✓ ここまでのポイント
- さつま福永牧場はさつま町で約1,850頭を飼育する完全一貫経営の牧場。産まれた瞬間から出荷まで自社管理
- 地元農家産のワラ・牧草+肥育後期の「炊き餌」が、MUFA値62%・融点13℃という脂質特性を生む
- 「さっぱりしているのにコクがある」という評価は、飼料設計から生まれた必然の結果
牛舎でジャズが流れている理由——アニマルウェルフェアという考え方
お客様には、あまり話さないことがあります。うちの牛舎では、ジャズやクラシック音楽を流しています。
笑い話に聞こえるかもしれませんが、これは真剣な取り組みです。牛はストレスに敏感な動物で、精神的な緊張状態が続くと、肉質にも影響が出ます。穏やかな音楽環境を整えることで、牛がリラックスして過ごせる時間を増やす——これがアニマルウェルフェア(動物福祉)の実践のひとつです。
さらに、センサー付きの首輪によるICT管理も導入しています。牛の体調変化・発情サイン・妊娠状態をリアルタイムで把握することで、適切なタイミングでのケアが可能になります。人工授精師の資格を持つオーナー・福永が、このデータを活かして繁殖管理を行っています。精密畜産と呼ばれる手法ですが、要するに「一頭一頭をちゃんと見る」ということです。
A4等級以上を年間9割維持できている背景には、こういった地道な日常の積み重ねがあります。日本一という称号は、大会当日だけではなく、365日の牛舎での仕事が積み上げたものです。
「鹿児島で牛の畜産をやっている友人から紹介。都内でこれだけの肉なら2倍以上のお会計のはず。本当に連れてきてもらって良かった」
TripAdvisor レビューより
農協を離れた日から、「届ける」仕事が始まった
オーナー・福永充が牧場経営を本格化させたのは、祖父が1頭から始めた家業を継いだところからです。当時は農協を通じた出荷が主流で、自分の牛がいくらで評価されたかは数値でしか知ることができませんでした。誰に届いて、どんなふうに食べられているのか——それが見えない出荷の仕組みに、ずっと違和感を持っていました。
転機になったのは、地元で少量を自分で販売する機会を得たことでした。消費者から直接「美味しかった」「また食べたい」という言葉をもらった瞬間、この仕事の意味が変わりました。農協を離れ、銀行との取引を始め、東京食肉市場への自主出荷契約を取り付けた。当時は業界内でも異例の動きでした。
その後、熟成焼肉Gyudo!を天文館に開店。繁殖・肥育・加工・販売・飲食までを自社で完結させる六次産業化を実現しました。2013年には全国肉用牛枝肉共励会で名誉賞(最高賞)を受賞。そして2025年、全国肉事業枝肉共励会でグランドチャンピオンを獲得(通算4回目)。「日本一」という称号が、さつま福永牛という名前に客観的な根拠を与えています。
「見た目が豪華で贈答用として喜ばれる。さっぱりとした口当たり。のし対応も可能で使いやすかった」
食べチョク 購入者レビューより
さつま町から天文館へ、そして全国へ
農業フェアで話しながら、いつも思うことがあります。牧場とお皿の距離を、できるだけ縮めたい、ということです。
天文館の焼肉店 熟成焼肉Gyudo!では、さつま町から届いたさつま福永牛を、牧場直営ならではの価格で提供しています。ランチは1,870円から。「都内なら2倍以上の値段」という口コミをいただくことがありますが、それは中間業者を通さない一貫経営の結果であり、誇りをもってその価格を設定しています。
通販・食べチョク(評価4.9点)や楽天市場では全国へ発送。のし対応・化粧箱ギフトにも対応しており、お祝いや贈答品としてもご利用いただいています。ふるさと納税の返礼品としても提供中です。
さつま町の牧場で育まれた一頭の命が、天文館の焼肉店の網の上で、あるいは全国のご家庭の食卓で、誰かの記憶に残る一皿になる。その道筋を、自分たちで作り続けることが、この仕事の核心だと思っています。
まとめ:牧場から食卓へ、一頭の命を丸ごと
農業フェアをきっかけに書き始めたこの記事、気づけば牧場の裏話が随分と出てきました。炊き餌のこと、ジャズのこと、農協を離れた日のこと——お店のカウンターやテーブルではなかなか語る機会のない話です。
でも、こういう話が「なぜこの肉は美味しいのか」という答えになっている。食べに来てくださる前に知っていただけると、また違った一皿の味わい方ができるかもしれません。さつま町から鹿児島市天文館まで、あるいは全国の食卓まで——さつま福永牛が届く道のりの先に、皆様がいます。
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