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「口の中で溶ける」の正体――脂の融点13℃が意味すること

「口の中で溶ける」の正体|脂の融点13℃が意味すること|さつま福永牛

その夜、箸を置いてしばらく黙ってしまった、と彼女は言った。
舌の上に、熱はなかった。ただ、静かに消えていった、と。

知人から連絡が来たのは、さつま福永牛のサーロインを送った翌週のことでした。「フライパンで焼いただけなのに、家族全員が黙り込んでしまって」と。誰も言葉を発しなかった、というその夜の食卓の様子を、彼女はうれしそうに話してくれました。

「不思議なのよ。溶けるって感じ、したことなかった」

「溶ける」という感想を、牛肉に使ったのは初めて聞いた言葉でした。その一言から、「口溶け」という体験の正体を、きちんと言葉にしたくなりました。

その「くどさ」には、理由があります

贈り物でもらったA5ランクの和牛を焼いた。値段も等級も文句なし。なのに、どこかくどい。二切れ食べると、もういいかな、という気持ちになる。

「高い肉なのに、なぜか感動しなかった」——この体験には、ちゃんと理由があります。答えは、霜降りの「量」ではなく「質」、もっと正確に言えば脂の融点にあります。

脂の融点13℃、という数字

脂には、固体から液体に変わる温度があります。それが「融点」です。一般的な和牛の脂の融点は15〜20℃といわれています。口の中の温度はおよそ36〜37℃なので、ほとんどの和牛の脂は、口に入れれば当然溶けます。では、さつま福永牛は何が違うのか。

さつま福永牛の脂の融点

13

一般的な和牛が15〜20℃のところ、2〜7℃低い
少し肌寒い秋の朝の気温と同じです。

さつま福永牛
融点 13℃
13℃
一般的な和牛
融点 15〜20℃
15〜20℃
口の中の温度
体温 約36〜37℃
37℃

肉を焼いたフライパンから皿に移し、家族が席についた——そのわずかな時間のうちにも、表面の脂には綺麗な輝きが。そして口に入れると旨味がとけて、さらに噛むと同時に広がり、飲み込む前に脂っこさが消える。

なぜ融点が低いのか——MUFA62%という数字

脂の融点を左右するのは、脂の「種類」です。牛の脂には、大きく分けて「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸(MUFA)」があります。MUFAは融点が低く、口溶けをよくします。さつま福永牛のMUFA値は平均62%。オリーブオイルに多く含まれるオレイン酸と同じ種類の脂が、霜降りの62%を占めています。「体にやさしい脂」として知られるオリーブオイルと同じ成分が、この牛の中にあります。

さつま福永牛
MUFA 62%
62%
一般的な国産牛
40〜50%
45%

比べてみると

一般的な和牛

脂の融点15〜20℃
MUFA値40〜50%
口に入れた瞬間噛んで広がる
食後の感覚重さが残ることも

「胃もたれしない霜降り」は、存在します

「霜降りはくどくなる」という思い込みは、脂の「量」だけを見てきた習慣から来ています。しかし脂の「質」——MUFAの比率と融点——が変わると、体への負担がまるで違います。融点の低い脂は消化されやすく、胃に長く残りにくい。食後に「重たい」という感覚が少ないのは、このためです。

霜降りの負担は、脂の量ではなく脂の質によって大きく変わります。融点の低い不飽和脂肪酸を多く含む脂は消化されやすく、食後に胃が重たくなりにくい。さつま福永牛の脂は、多くの方が思う「霜降りのくどさ」とは、構造的に異なります。

最後に

「不思議なのよ。溶けるって感じ、したことなかった」と言った彼女に、あのとき筆者はうまく説明できませんでした。

でも今なら答えられます。「あの牛の脂は、13℃で溶けるから。口に入れる前から、もう溶けはじめているんです。」

脂の融点を知ってから、肉の選び方が変わりました。霜降りの多さより、脂の質を見るようになりました。一度、さつま福永牛を食べてみてください。「溶ける」という体験が、何なのかを教えてくれます。

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  • この記事を書いた人

gyudo-fukunaga

福永(株式会社牛道役員) 1級フードアナリスト・管理栄養士・日本箸教育講師・25年間の学校栄養教諭経験を経て、食品安全管理の知識と、現在の食肉業界での実務経験を活かし、消費者の皆様に安心・安全な食品選択のための情報を提供している。

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