福永畜産について

鹿児島の肉文化を語るなら牧場から始めるべき理由。黒毛和牛と薩摩の農業の話

梅雨が明けた頃、鹿児島市内の街路樹がいっせいに濃い緑を取り戻します。センテラス天文館の向こうに桜島がうっすら煙を上げるこの季節になると、私はいつも薩摩郡さつま町の牧場のことを思い出します。夏の牧草の匂い、牛の体温、牛舎の中に静かに流れるジャズ。天文館で熟成焼肉Gyudo!を開いて以来ずっと、この店の根っこはあの丘の上にある、と感じてきました。

「鹿児島の肉は美味しい」と言われます。でも、なぜ美味しいのかを説明できる人は、意外と少ない。牧場まで遡って話せる人となると、もっと少なくなります。今日は、さつま福永牧場オーナーの福永充が、34年の畜産経験と自分自身の来し方を振り返りながら、薩摩の農業と黒毛和牛の話をしたいと思います。

こんな方におすすめ

  • ✅ 鹿児島の黒毛和牛がなぜ美味しいのか、その背景を知りたい方
  • ✅ 「牧場直営」という言葉の意味を、実際のストーリーで理解したい方
  • ✅ さつま福永牛を食べる前に、生産者の顔と思想を知っておきたい方
  • ✅ 鹿児島の農業・食文化に関心がある地元の方や旅行者の方
  • ✅ ギフトや接待で使う前に、「なぜこの牛なのか」を語れるようになりたい方
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野球少年が牛を選んだ理由

正直に言うと、子どもの頃から「牛を育てたい」と思っていたわけではありません。鹿児島実業高校時代はひたすら野球に打ち込み、日本大学農獣医学部への進学後も、将来の青写真はずっとぼんやりしていた。関東で就職し、しばらく働いたあと、何かが引っかかってUターンを決めました。

鹿児島に戻ってから、畜産試験場や専門学校に通い始めました。人工授精師の資格を取り、畜産の現場を学び直す日々。祖父が1頭から始めた家業の牛の世界に入ったのは、そういう遠回りをした後のことです。当時、牧場の頭数は50頭ほど。今の2000頭近い規模からすると、ずっと小さな牧場でした。

薩摩の農業は、鹿児島の自然風土と切り離せません。南国の気候、火山灰土の大地、温暖な気温。黒豚文化とならんで黒毛和牛の飼育が根付いてきたのは、この土地ならではの条件があってこそです。でも私が牧場に入って最初にぶつかったのは、「自分の牛が美味しいかどうか、知る方法がない」という壁でした。

農協出荷の時代——数字だけが届いた

当時の出荷は農協を通したルートが当たり前でした。牛を育てて出荷すると、数値として評価が戻ってくる。A4だった、A5だった。それだけです。誰がその肉を食べたのか、どんな調理をされたのか、食べた人がどんな顔をしたのか——何も届かなかった。

転機になったのは、地元で少量を自分で販売する機会を得たことでした。消費者と直接向き合い、「この脂、全然くどくないですね」「また買いに来ます」という言葉をじかに受け取った瞬間、何かが変わりました。数値の向こうに、人がいる。自分の牛の価値を、数字ではなく言葉で知ったのは、あの時が初めてでした。

その経験が、農協を離れる決断につながりました。当時はまだ稀なことでした。銀行との取引を始め、東京食肉市場への出荷契約を自分で取り付けた。怖くなかったといえば嘘になりますが、「届けたい」という気持ちのほうが強かった。

✓ ここまでのポイント

  • さつま福永牧場は、祖父が1頭から始めた家業を34年かけて約1,850頭規模まで育て上げた鹿児島を代表する和牛牧場です
  • 農協出荷から自主出荷へ転換したきっかけは、消費者の声を直接受け取った体験——「届けたい」という思いが六次産業化の原点にあります

さつま福永牛の品質は、なぜ安定しているのか

現在、鹿児島県薩摩郡さつま町の牧場では、肥育牛約1,100頭・繁殖牛約450頭・子牛約300頭を飼育しています。年間出荷は約600頭。繁殖から肥育、加工、販売、飲食まで、一頭の牛を完全に自社で完結させる六次産業化の仕組みを実践しています。

品質の安定を語るときに外せない数字があります。MUFA(一価不飽和脂肪酸)値、平均62%。脂の融点、13℃。和牛の平均的な融点が15〜20℃とされる中で、さつま福永牛の脂はそれより早く、低い温度で溶けます。「霜降りなのに胃もたれしなかった」というお声を多くいただくのは、この脂質特性があるからです。

飼料へのこだわりも欠かせません。地元農家産のワラや牧草を中心に使い、肥育後期には大豆・米ぬかなどを蒸してつくる「炊き餌」を与えています。牛舎ではジャズやクラシック音楽を流し、ストレスの少ない環境で育てる。さらにICTセンサー付きの首輪で体調をリアルタイムに管理し、品質の安定を精密に支える。こうした積み重ねが、A4等級以上9割という数字として現れています。

平成25年(2013年)に全国肉用牛枝肉共励会で名誉賞(最高賞)を受賞し、全国肉事業枝肉共励会ではグランドチャンピオンを4度獲得しました。直近では2025年にも受賞しています。これらは自己申告ではなく、全国の生産者と並んで競い、審査員が評価した結果です。「日本一」という言葉には、その重みがあります。

「鹿児島で牛の畜産をやっている友人から紹介。都内でこれだけの肉なら2倍以上のお会計のはず。本当に連れてきてもらって良かった」

TripAdvisor より

牧場から焼肉店へ——一頭飼いを一頭売りにするという思想

熟成焼肉Gyudo!を天文館に開いたのは、「食べる現場まで自分たちで届けたい」という延長線上にある決断でした。牧場で丁寧に育てた牛を、誰かの手を経由して届けるのではなく、自分たちの手で焼き、自分たちの口で説明し、食べた方の表情を直接見たい。それが店を持つことの意味でした。

「一頭飼いを一頭売りに」という言葉を、私たちは大切にしています。一頭の牛には、ロースもカルビも、希少部位もあります。大量仕入れでは生まれない「この牛のこの部位」という固有性が、牧場直営だからこそ実現できます。シャトーブリアンもハラミも、同じ一頭の命から生まれている。その全体を、余すことなく価値にすることが、六次産業化の本質だと考えています。

今は鹿児島市天文館の本店とはなれに加え、通信販売、肉の道の駅(直売所)、ふるさと納税返礼品、そしてアジア圏・EU・アメリカへの海外輸出まで、さつま福永牛の届け先は広がっています。それでも原点は変わらない。鹿児島県さつま町の丘の上の牧場から、一頭の牛が始まる。

「焼きすき焼きは牛の旨味が凝縮した最高の一皿。シャトーブリアンはお口でとろける」

食べログ(牛道はなれ)より

薩摩の農業が育む、鹿児島の肉文化

鹿児島の肉文化を語るとき、「黒豚か黒毛和牛か」という話になりがちです。でも私が34年の畜産経験を通じて感じるのは、どちらも薩摩という土地が育てたものだということです。火山灰の大地でたくましく育つ牧草、温暖な気候の中でのびのびと過ごせる牛。人の手をかけながら、この土地の自然を借りて育つ命が、鹿児島の肉文化をつくっています。

さつま福永牧場では、牛の排泄物を堆肥として地元農家に還元し、その農家から飼料となる牧草を仕入れる循環型農業を実践しています。土が良くなれば牧草が育ち、牧草が良ければ牛が育つ。この循環の中にこそ、「なぜ薩摩の牛は美味しいのか」という答えがあると思っています。

鹿児島の肉文化を語るなら、まず牧場から始めてほしい。その思いが、この記事を書いた理由です。天文館の焼肉店で一枚の肉を口にする前に、さつま町の丘の上で牛が草を食んでいる景色を想像してもらえたら、その一枚の味わいは少し変わるはずです。

まとめ

さつま福永牧場が34年かけて積み上げてきたのは、頭数でも等級でも受賞数でもなく、「届けることの責任」だったと思います。誰が育てたか、どう育てたか、それが分かる肉を食べる体験は、単なる食事とは少し違う重みを持ちます。鹿児島の肉文化を、牧場から始まるストーリーとして感じてほしい——それが、熟成焼肉Gyudo!という場所の存在理由です。

さつま福永牛を実際に味わいたい方は、天文館の本店またははなれへ、ぜひお越しください。ランチは1,870円から、ディナーコースは7,986円から。接待・記念日・特別な会食には、完全個室の「牛道はなれ」もご用意しています。ご予約・お問い合わせはお気軽にどうぞ。スタッフ一同、お待ちしております。

📞 お電話でのご予約・お問い合わせ: 0992232044

🥩 熟成焼肉Gyudo!ご予約<24時間受付>

🏮 個室焼肉牛道はなれご予約<24時間受付>

  • この記事を書いた人

gyudo-fukunaga

福永(株式会社牛道役員) 1級フードアナリスト・管理栄養士・日本箸教育講師・25年間の学校栄養教諭経験を経て、食品安全管理の知識と、現在の食肉業界での実務経験を活かし、消費者の皆様に安心・安全な食品選択のための情報を提供している。

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